獅子奮迅

「正義の女神」と「護りの女神」は、2000年開催の「カンナ生誕月間」に寄稿した小説でした。
「獅子奮迅」では、「護りの女神」をマンガにしてあります。


正義の女神


 太正12年初夏

 花の都・帝都で評判の、帝国歌劇団。
 4月に新人を迎え、又、留守をしていた者も帰ってきて、そのかしましさにも輪をかけていた。

 女優と言えど、普通の女の子。
 最近は心理テストだ占いだと、非科学的なものが流行っている。
 もっとも、科学を信じる紅蘭に言わせれば、「これも統計学の一つ」と言うことらしい。

 今日もお茶の時間に、さくらが西洋占星術の本を持ち出してきた。

「お兄ちゃんの誕生日は1月3日なんだよ」
 既に、自分の結果を聞いたアイリスが、所用で居ない大神の誕生日を告げる。
「へえ、そうなの?」
「なんで知っとるん?」
 さくらと紅蘭の問いに、当然と言うようにアイリスが答える。
「だってアイリス、お兄ちゃんの恋人だもん」
 とは言え、本当は、自分の誕生日が近付いてきてから思い立ち、つい最近聞いたばかりなのだった。

「えーと。それじゃあ大神さんは山羊座。あ、すみれさんと同じですね」
「すみれと同じぃ〜?」
「まあ、少尉と一緒ですの? 奇遇ですわねぇ」
 非難めいた声を上げるカンナを無視したすみれが、後を継ぐ。
「なーんか、信用性、無くなってきたなぁ。隊長の性格のどこが、サボテンのおめえと一緒なんだよ?」
「あら。何事にも強い意志を持っている、なんて、少尉にぴったりですわ」
「まあ、ものは言いようやからね」
 紅蘭がまぜっかえす。

「カンナさんはいつですか?」
「ん? 9月7日」
 9月7日、と、つぶやきながら、目当ての項目を探していたさくらの動きが止まる。
「カンナさんは、・・・。
 ・・・乙女座、ですね」
 さくらが言い淀む。
 そして皆の頭の中で『おとめざ』が『乙女座』に変換されるまでに、少しの間。

「おい、さくらぁ。今の間はなんだぁ?」
 最初に反応したのはカンナだった。
「あたいが乙女座じゃあ、悪いとでも言いたいのかぁ?」
「あ、いえ。そういう訳じゃ」
 ちょっとだけ『意外な結果』、と、思ってしまったさくらが、焦りながら答える。
「動物以外の星座もあるんだなぁ、って」

「まあ、本当にこの占い、信用性無くしましたわねぇ。カぁンナさんが『オ・ト・メ』だなんて。
 ちゃんちゃらおかしいですわ。おーほっほっほっほ」
「へっ、悪かったな。じゃあ、山羊座のオメエは紙でも食ってろ。メエェ〜、ってな」
「んまあ! 益々、乙女とは言えませんわね」
「あ、あの! 乙女座って、アストラエアって言う、正義の女神なんですって」
 火花を散らす二人の間をさくらが割る。
「正義の女神! そりゃ、カンナはんにぴったりや。凛々しい女神なんやろなぁ」
 紅蘭も、さくらに加勢する。
「性格は?」
 続いてアイリス。
「『ずるいことや汚いことが大嫌いという、真っ直ぐ一本気な性格』ですって」
 さくらと紅蘭とアイリスに邪魔されて、喧嘩をする気を無くしたカンナとすみれも、さくらが読み上げるのを共に聞く。
「なんか、一番いい事、書いてあるね」
 『お天気屋』と書かれていた事に不満が残るアイリスが言う。
「それこそ、ものは言いようですわ。一本気なんて、融通が利かないって事でしょう?」
 言われたカンナは、しかし、
「ま、中々面白い結果かな」
と、取り合わない。

 そして、微笑みの中に、一瞬の遠い目。
『「正義の女神」、・・・ね』



 無視された形になり、もう一言言わなくては気が済まないと、カンナを見やったすみれだったが、カンナが浮かべた物思いの表情に、言葉を止める。 
 が、次の瞬間には、カンナの顔は元に戻っていた。

「次、マリア見ようぜ」
 なぜか今日は話に加わらず、事の成り行きを静観していたマリアを、カンナが引きずり込む。
「私はいいわ」
「なんだよ、後はマリアだけなんだぜ? マリアは6月19日な」
「はい」
 マリアの狼狽もかまわず、カンナはさくらに、マリアの誕生日を告げる。
「そういえば、さくらさんもまだですわね」
 すみれの言葉に、今度はさくらが動揺する。
「え、あたしはいいですよ」
「あら、ご自分のを教えないなんて、ズルいですわ。さては、あまり良いことが書いてなかったのですわね?」
「あ、もうこんな時間! お茶、片付けますね」
 大変な事に気付いたかのように、さくらが飛び上がる。
「そうね。公演の準備が遅くなるわ」
「さてはマリアも、この本先に読んでたな?」

 そそくさと席を立つさくらとマリアを、そのまま見逃す花組ではない。

「ちょい待ち、さくら」
 カンナがさくらを捕まえる。
「あ〜ん、ごめんなさ〜い!」
「この本、借りるぜ」
「え、ああっ?」
 カンナに力でかなう訳もなく、本はあっさり、カンナの手に移る。
「ほい、紅蘭」
「はいな」
「カンナ、そこまでする必要があるの? イヤがってるのに」
「う・・・」
 マリアの声に、カンナが手を離すのをためらい、紅蘭とカンナの間で本が止まる。
「あら、マリアさん。そもそもこの本を持ち出したのはさくらさんですのよ? 
 まさか、ご自分だけ占わないで済むと思っていたとでも?」
「せやで。なあ、さくらはん?」
 すみれと紅蘭は怯まず、さくらに問う。
「・・・はい。判りました」
 さくらが、諦めと共に了承する。

 カンナから解放されたさくらは再び椅子に座り、本は紅蘭の手に移る。
「で、さくらはんの誕生日は?」
「・・・7月28日の獅子座です」

 どれどれと、皆の視線が本に集まる中、カンナは立ったままのマリアに寄る。
「マリア、ごめん。自分の事、勝手にあれこれ言われるの、イヤだよな」
「いいのよ、別に。ただの占いですもの」
 マリアが苦笑する。

 本を広げた紅蘭が、獅子座の性格を読み上げ始める。
「『小さいことは気にしない、よく言えばおおらか、悪く言えば大雑把な性格。ただ、自分の進退に関わる大事では、思いどおりにならないと怒りやすい傾向がある』やて」
「あ〜ら。『大雑把』だなんて、田舎娘にはぴったりですわね」
「・・・そう言われると思ってました」
 漫画的な表現ならば、「滝の涙」が流れそうな顔でさくらが答える。

「残るはマリアはんやけど・・・」
 さすがに、紅蘭も、マリアの顔色を伺う。
「6月19日。双子座よ」
 マリアが穏やかに言う。
「双子座やね」
 その口調に内心ほっとしながら、紅蘭が本に目を向ける。
「『頭の回転がとても速く、まわりからの信頼も厚い。また逆に思慮が過ぎて、まわりから疎まれることもある。責任感が人一倍強いために、必要以上に他人のことで悩んでしまう苦労性』」
 ふむふむと聞いていた皆は、しかし、リアクションに困る。
「うーん。確かにマリアはんは規律に厳しい所もあるけど、疎んだりは思わへんで。誰かきっちり仕切ってくれはる人がおらんとやもんなぁ」
「いいのよ、紅蘭。私も当たっていると思うもの」

 と、突然の笑い声。
「なんだ、マリア。そんな事気にしてたのか。確かにそりゃ、『苦労性』だぜ」
 カンナに笑われたマリアの頬が赤味を差す。
「占いなんて、いいように解釈しとけばいいんだよ。さくらだって、こんなサボテンの言うことなんか、気にするこたぁないぜ」
 指されたすみれが、反撃を始める。
「ちょっと。『こんな』って、どういう意味ですの?」
「そりゃ、取るに足らないと言うか、箸にも棒にもかからないと言うか」
「まあ。その言葉、そっくりそのまま貴女にお返ししますわ」
「そっくりそのままたあ、珍しい。いつも余計な事、ベラベラしゃべりまくるくせに」
「ええ。私のハイソな言葉では、貴女に伝わらないようですから、貴女に合わせて差し上げたのですわ」
「ハイソときたか。それは・・・」
「いいかげんにしなさい!」
 マリアが間に入る。
「さあ、もう公演の準備を始める時間よ」

「ぷ、あははははは」
 カンナの笑い声につられ、マリア一人を残して、他の4人も笑い出す。
「やっぱり、マリアはそうでなくちゃ」
「あ・・・」
 事態を理解したマリアが赤くなり、口を抑える。
「そうそう、マリアはんがおらへんかったら、暴走止まらへんもんな」
「ピシッと心の入れ換えが出来るんですよね」

 フッと、マリアも笑う。
「いいわ。じゃあ、これからも厳しくさせて貰うわよ?」
「おっと、こりゃヤブヘビか? お手柔らかに頼むぜ」

 帝劇に、明るい笑い声が響いた。


正義の女神 了




護りの女神


 照りつける太陽の下、首里城へ続く坂道を登りながら、さくらが尋ねる。
「でも、いいんでしょうか? 黒之巣会が現れたら困るんじゃないですか?」
「いいもなにも、今更言ったってしょうがねえだろ。大丈夫だって。隊長たちがなんとかしてくれるさ」
 カンナとさくらは、『テイゲキグラフ』のグラビア撮影で、沖縄に来ているのだった。

 この雑誌は神崎グループの出版社から出ており、すみれの「夏と言ったら南国。南国ブームの今、特集を組まなくてどうなさいますの?」の一言で、沖縄での撮影が決まっていた。
 すみれが言い出したにもかかわらず、本人は、「そんな日差しの強いところへなど行きませんわ」と、沖縄出身のカンナと、何故かさくらを指名したのだった。

「ま、何か起きたら、翔鯨丸でひとっ跳びだぜ」
 長い間帝都を空けるわけにいかないと言う帝撃側に、神崎がスポンサーの特権をかざし、翔鯨丸まで駆り出しての強行軍。
 しかも風組の支援はなく、カンナが操舵管を握ってきたのだった。
 ある程度の自動操縦が出来、仮眠を取ったとは言っても、片道10時間近くの行程を一人でこなしてきたカンナは、しかし疲れを見せる事もなく、反対に、沖縄へ着いて一層元気を増しているようにさえ見えた。

「じゃあ、まずはこの辺で撮ります」
 首里城の門の前で、スタッフが声を掛ける。
「はい!」
 さくらが緊張の面持ちで、声を張り上げる。
「おい、さくら。もっとリラックスしろよ。
 新人のおめえが顔知ってもらうチャンスなんだから、いい顔しろよ」
「は、はい」
 言われて益々、緊張する。
 自分のグラビアが雑誌を飾る。その事実をあまり考えずにここまで来てしまっていた。

「さくら」
 カンナがコツンと、さくらの頭を小突く。
「ほら、空見てみろよ。真っ青で気持ちいいだろ?」
「はい?」
「やっぱりさぁ、帝都とは色が違うんだよなぁ。この空見ると、元気が涌き出てくるんだよな」
 共に空を見上げる。
 さくらは心の中に、青空が染み込んでくるのを感じた。


「本当に、綺麗ですね」
「いい顔だ」
 空を見上げるさくらの顔に、カンナが笑顔を掛ける。
「もう、大丈夫だな?」
 さくらの顔にも笑顔が宿る。
 そして、さっきとは違う、元気な声の明るい返事。
「はい!」



 最初の撮影を難なく終えて、門の中へと入っていく。
 と、敷地の一角に、狛犬のような像。
 さくらと同時にその像を見つけたカンナが、寄りながらさくらを呼ぶ。
「さくら、紹介するよ。これがあたいの親父だ」
 カンナが狛犬に手を掛けて言う。
「ええっ?」
 言われたさくらは混乱するばかり。
「えーと・・・」
「おいおい、さくらぁ。冗談に決まってるだろ?
 これは、シーサーって言って、家の護り神というか、魔除けみたいなものだな」
「ああ、だから!」
 合点が行ったと、さくらがポンと手を打つ。
「カンナさんには、いつもお世話になっています」
 律儀に頭を下げる後輩に、今度はカンナが困惑する。
「おい、さくら。それは突っ込んで欲しいのか?」
「はい?」
「何を挨拶してんだよ?」
「だって、カンナさんのお父様だから・・・」
「それは何か? あたいの顔が、こいつそっくりだとでも言いたいのか? ああ?」
 カンナは言いながら、シーサーの顔を真似てみせる。
「顔はそんなに・・・。お父様じゃないんですか?」
 カンナとシーサーを見比べたさくらが、焦りながら答える。
「どこに、こんな親持つ奴がいるんだよ?」
「だって、龍の子を身ごもった人の話とかあるじゃないですか。だから」
「そりゃ、作り話だろ!」
「ええーっ?」
 天然すぎるさくらとのやりとりに、ついにカンナは吹き出してしまった。
「あっはっはっはっはっ。じゃあ、なにか? あたいのお袋は、こいつにヤられちまったって事か?」
「・・・カンナさん、下品です」
 顔を赤くしたさくらに上目使いで睨まれ、カンナはバツが悪くなる。
「・・・だって、さくらが言い出したんじゃねえか」
「あたしは・・・」
 やや間があって、さくらが話出す。
 
「この間、西洋の占星術で占いましたよね? その時、カンナさんは乙女座で、『正義の女神』って。
 紅蘭じゃないけど、私も、カンナさんって本当に『正義の女神』だなって、思ってたから。一緒に戦ってて、感じたから。
 だからそれは、『護り神の子』だったからなのか、って・・・」
「そんなにおだてても、何も出ないぜ?」
 言葉を探しながら話すさくらに、カンナが茶々を入れる。
「おだててなんかいません! 本当にカンナさんは・・・」
 ムキになりかけ、
「マジになんなよ。テレるだろ」
 カンナのはにかんだ笑顔に、さくらも赤くなって頷く。
「フフッ。はい」


「でも、そうだな。護り神にはなりたいと思うよ」
 城下を見渡しながらつぶやいたカンナが、不意にさくらに振り返る。
「沖縄ではさ、ウナイ神ってのが信じられてるんだ。
 女の神様なんだけど、男を護る力を持ってるって」
「男を護る・・・、ですか」
 カンナの真面目な口調に、さくらも真摯に耳を傾ける。
「ああ。その力ってぇのは、女に宿る霊力なんだとさ」
「霊力!?」
「な、驚いただろ?」
 霊力と言えば、帝国華撃団にはなくてはならない力だ。
 光武も霊力が無ければ動かない。
「あたいも初めて知った時は驚いたよ。あたいが空手で使ってた『気』が霊力だったなんて。
 でも、それなら、あたいは帝都を護るウナイ神になろう、って、決めたんだ」
「あたしも! あたしもウナイ神になれますか?」
 さくらが興奮気味に、カンナに詰め寄る。

 その勢いに目を丸くしたカンナだったが、さくらの真剣な眼差しに、頷いてみせる。
「ああ、なれるさ。さくらが望むなら」
 そして、最高の笑みを、さくらに投げかける。
「絶対、帝都を護ろうぜ」
「はい!」
 カンナの笑顔につられて、さくらも笑顔になる。
 
 すべてを包む沖縄の空の元、堅く誓い合う二人の姿があった。


護りの女神 了




後書き

「正義の女神」は2000年8月28日脱稿
「護りの女神」は2000年9月3日脱稿 でした。
(本のタイトル「獅子奮迅」は、四字熟語でさくらが獅子座、って安直な選択です)

「誕生日ネタ」と、言うことで、色々考えてみたものの、これだと思うものが浮かばない。
「乙女座ネタ」も、候補にあったものの、どう転がしていいものか、と悩んでいました。
で、8月24日。
「乙女座はアストラエア」と言う記述を見つけて出来上がりました。
実は「カンナが乙女座?(笑)」と言う、失礼な感想は、私の感想です。(オイ)

「正義の女神」を書いている時、まだ、「護りの女神」へのはっきりとした繋がりは出来ておらず、さくらと大神のどちらに、カンナとアストラエアを結び付けさせるかも決まっていませんでした(汗)
結局、さくらとの話となったため、全然話に加わっていない大神の出番は削りました。

マリアも話に加われず、どうしたものか、と。
一応、「既に結果を知っている」という理由はつけてあったのですが、2000年9月20日に、『無視された形になり』以降を書き加えました。
マンガなら、結果とリアクションで2ページで終わるような内容だったんですが、何故こんなに?(汗)

太正時代に星占い? と思った所は、GBC「檄・花組入隊!」で占いや血液型診断が出てきたし・・・と。
星占いの内容は、週間少年マガジン増刊「花組浪漫画報」を参考にしました。


「護りの女神」は「テイゲキグラフ サクラ 夏号」のカンナとさくらの写真をイラストにしたい。なら、それに合わせて小説も、と、形にしました。
「花組プレビュウ」で聞いた、撮影時のエピソードも混ぜて。

で、本当のテイゲキグラフサクラは春号から始まっているんですが、話の都合上、さくらのグラビアはこれが初めて、って設定で。
1年待ったりもしていません。
7月頭に撮影、7月中旬発行・・・かな?
(沖縄行きどころか発行も、かなり無理目なスケジュール・汗)

首里城の描写は大嘘です。
行ったことありません。

と、かなりボロがある話ですね(大汗)


そうそう。
すみれの一人称は「わたくし」の表記である事は、重々承知ですが、マンガを描く時に、フキダシを圧迫してしまうため、「私」にしております。
マリアも同様。
「文字」ではなく「音」で認識していたため、自分では気にしていませんでした。
ご了承ください。


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