韓国の女性たち

私は、今回、同じアジアで距離的にも非常に近い韓国が、「主婦」についてどのような考えをもっているのか、また、その背景を探っていきたいと思う。

<1.現代韓国の主婦の実情>
韓国ではまだまだ保守的な考えが強く、女性は結婚したら家庭に入るべきだという価値観が一般的である。1987年の韓国調査研究所の統計によると、「男は仕事、女は家庭」に賛成する人の割合は8割もいる。統計自体が若干古いため、単純に比較はできないが、1994年の日本の統計では、賛成する人は3割に満たない。男女平等の国として評価の高いスウェーデンにおいては1割であることを考えると、韓国の8割というのが非常に高いことがわかる。

したがって韓国の企業によっては、結婚と同時に退職することを条件に採用しているところも未だに多い。制度的には女性も働きやすいように配慮されてきてはいるが、育休などを実際に利用できる環境になく、出産後の再就職は極めて難しいのが現状である。そのため、女性の平均勤続年数は2.5年で、5年以上勤続している人は全体の13.1%しかいない(1990年韓国政府機関労働部調べ)。官庁や一流企業の場合だと、課長以上の幹部に女性が配置されることはほとんどない(注1)。

しかし近年、急激に状況が変わりつつある。統計庁のデータによると、高所得が保障される専門職での女性増加が目立つ。2006年、国家公務員試験を受けた女性は全受験者の44.6%に達したほか、司法試験も37.7%、外務公務員国家試験も36.0%という高い割合を示した。女性の地方議会議員数は525人で全体(3,626人)の14.5%を占めており、2002年(3.4%)に比べると11.1ポイント上昇した。医師や薬剤師など専門職に就く女性の割合も年々高くなっており、小学校教諭の場合は昨年、80.1%という過去最高の数値を記録した(注2)。 これらのような専門職では比較的男女差別が少なく、女性でも専門性を発揮して仕事に取り組めることから、就職を控えた女子大生の間で専門職志望が高まっている(注3)。

家父長的な儒教思想が薄れ、これで韓国も次第に男女平等の国へと発展していくだろうと思われるが、専門職と公職を除いた分野での女性の進出はまだ伸びていない。専門職や公職に就ける女性は、社会全体では少数である上、女性の経済活動参加率を見ると、2004年では53.9%で、経済協力開発機構(OECD)加盟諸国のうち最下位のレベルである(注4)。 女性自身も、家庭生活が経済活動の支障になることを不可抗力と考え、「女に生まれたのだから仕方がない」と受け入れているのだという。ここに、現在でも女性に、家庭での「母親としての役目」を要求し、女性もそれに大人しく従う家父長的文化を垣間見ることができる。

<2.出生率抑制政策と就職難が女性に与えた影響>
日本と同様、韓国でも少子化問題が深刻化している。韓国の統計庁が発表した資料で出生率を見てみると、2005年の合計特殊出生率は1.08人で、2004年の1.16人に比べて0.08人減少しており、下の表1と表2を見てみても、韓国の少子化がより深刻な状況だということがわかる(注5)。
表1 韓国の合計特殊出生率の推移 (出典:All Aboutのホームページから)
表2 OECD諸国の合計特殊出生率の推移 (出典:All Aboutのホームページから)
ではなぜ韓国ではこのように少子化が急速に進行してしまったのか。その原因の一つに人口増加抑制政策が挙げられる。韓国では1970年代までの朴正煕大統領の時代に、経済的発展を理由に強力な人口増加抑制政策が行なわれたのである。急激な高度経済成長により人口が一気に増え、今の中国の一人っ子政策のようなことを行った結果、子どもひとりあたりにかける教育費が倍増した。2005年のOECD統計年報によれば、教育費支出率は8.2%と、OECD加盟国30カ国中最も高い(注6)。子どもの数よりも質を重視し始めたのである。その結果、受験戦争も過熱化し、高卒者の大学進学率が男女とも80%を超すまでになった(注7)。

それに伴い次第に女性も社会に進出していったが、子どもの数が減少したにもかかわらず、大学卒が増えたことで「買い手市場」となり、4年制大学を卒業してももはやエリートではなくなった。大卒以上の高学歴女性の雇用比率は55.0%とOECD加盟国中最も低く、深刻な就職難に陥っている。就職が困難になるほど、女性は大学院進学などのより高い学歴を求めるようになり、結果として高学歴化が更に進んでいる。また出産を機に休職すると、正社員としての再就職は難しく再就職できたとしても販売サービス業や単純労働職が圧倒的に多いため、子どもを産まずに就業し続ける女性が多くなり、これが急速な出生率の低下をもたらしたと考えられている。

<3.考察>
韓国では、日本以上に女性の社会進出が難しく、女性は家庭に入るべきだという考え方が一般化している。しかも女性もその考え方を受け入れているところが、他の先進国と決定的に違うところである。それは、韓国特有の伝統的な儒教の影響でもあるが、今回調べたような様々な要因も影響しているのではないかと感じた。

高度経済成長により一気に女性が社会に進出し始めたのはいいが、その急激な変化に社会が対応できず、結局女性は家庭へと押し戻された。また就職難が更なる受験戦争を生み、教育費が莫大になるため子どもの数はどんどん減少し、少子高齢化が進む。現代の韓国の問題点は、女性を受け入れていく社会制度がまだ整っていないことである。これは日本も同じことであるが、育休取得が容易にできる環境、周囲の理解、保育施設の充実を国が積極的に進めていく必要がある。今のところ、日韓両国とも目標としていた数値の半分またはそれ以下しか達成しておらず、男女平等な社会の実現にはまだまだ遠い。

女性が家庭に入り、専業主婦として生きていくことも一つの人生の選択肢ではあるが、多様な生き方のできない社会では、男女平等の世界などあり得ない。自由に生き方の選択ができてこそ、真に豊かな国となるのではないか。その意味で、韓国も、日本も、まだ発展途上国であると私は思う。

  注1
経済企画庁国民生活局『女性の目で見る結婚・家庭・仕事―海外生活通信員レポート―』大蔵省印刷局、1993年、38ページ。
  注2
『Yahoo!ニュース』2007年7月30日。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070703-00000028-yonh-kr
  注3
『朝鮮日報』2004年5月5日。http://www.chosunonline.com/article/20040505000033
  注4
『中央日報経済』2006年5月18日。http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=75493&servcode=300§code=300
  注5
韓国ネットビジネス事情:All About http://allabout.co.jp/career/netkorea/closeup/CU20060829A/
  注6
『連合ニュース』2006年3月15日。
  注7
春木育美『現代韓国と女性』新幹社、2006年、53ページ。

<参考文献>
瀬地山角『東アジアの家父長制』勁草書房、1996年。
春木育美『現代韓国と女性』新幹社、2006年。
経済企画庁国民生活局『女性の目で見る結婚・家庭・仕事―海外生活通信員レポート―』大蔵省印刷局、1993年。
韓国ネットビジネス事情:All About http://allabout.co.jp/career/netkorea/closeup/CU20060829A/index.htm
韓国の女性施策について http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/html/cr188/index.html


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