県立宇治山田高校に転勤し、合唱部顧問となって2ヶ月がたちました。6月11日に行われた三重県合唱祭が、私と部員達の初めてのステージでした。
盛り上がった当日
当日のみんなの様子は、見ていて楽しかったです。気になる高校の演奏を聴く。久しぶりの再会したOBとおしゃべりをする。母校の中学校の合唱部の生徒達と遊ぶ。参考書を広げて勉強をする。案内所近くにあるパソコンで遊ぶ。お昼を自由に食べる。・・・・・・・・忙しい学校から開放されて、本番までのゆったりとした時間をそれぞれが楽しんでいる様子でした。
とは言え、本番が近づいてきます。まず、感心したのは、練習のための集合時間の30分前から、各パート別に広場のあちこちに集まり、鍵盤楽器を囲んで発声練習を始めた事でした。宇治山田高校の昔からの伝統なのでしょう。「自分達でできることはやる!」という、自発性を感じ、頼もしかったです。「先生、男声を見て下さい。」どうやら、男子は、時間を持て余しているようです。テナーとベースで、この日の演奏曲を奏でてみました。荒削りですが、良く鳴りました。みんなテンションが高いです。いいですね。この雰囲気。
2時から、広場で、全体合わせ。とてもいい。広場にいるママさんコーラスの方々が、足を止めて聴き入ってくれました。お褒めの言葉を頂き、みんな大喜び。「こうして感激してくれる方々の生の声が聞けて、金賞獲るよりうれしいね。」とコメント。
いままで、「本番に弱い」と、去年までの自分達を振り返る部員達でしたが、この合唱祭で何とか吹っ切らせてあげたい、というのが、私の一つの目標でしたが、ママさん達のありがたいお言葉で盛り上がり、目標に近づけたような気がしました。
リハーサルは、いいテンションでした。もうみんな音楽に入り込んでいます。そして本番直前。みんなで円陣を組み、無声音で「オー」。心一つにして本番を迎えることが出来ました。本番は、緊張感もあったでしょうが、緊張を集中にうまく転換できたのではないでしょうか。気持ちのいい、みんなが音楽的に一つになったステージでした。
この2ヶ月
部員達にとっては、この日はどんな日だったのでしょうか。この2ヶ月、いろいろな不安があったことでしょう。「新しい顧問とうまくやっていけるだろうか」「新入部員は入ってくれるだろうか」「OBの期待に応えられるだろうか」「再団結できるだろうか」「勉強と両立できるだろうか」・・・・・・・・私は、これらの部員達の不安が痛いほどわかった2ヶ月でした。その不安を軽くするためにも、初めてのステージで充実した演奏をさせてやりたい。そのことで合唱の素晴らしさ・楽しさを再発見して欲しい、との一心で、昼休みも放課後も、積極的に彼らと関わりました。特に、運動部と兼ねている男性新入部員とは、昼休みの20分がすべてでした。上級生も入ってくれて、昼休みは、男声の雄叫びが校舎中に広がっていました。
ですから、この日の成果は、私にとっては大きかったです。これから始まる何年間かの、大切な大切なスタートをいい状態で切れたからです。新入部員達も、とても喜んでいました。「中学の時は銀賞しか取れなかった。くやしかった。でも、この合唱部は、いいものが出来そう。ガンバル。」と、嬉しい言葉をくれた部員も。夏のコンクールに向って、彼らがどう成長していくかを楽しみにしながら、部員達が帰っていくのを見送ったのでした。
合唱部の夏は、暑い。汗びっしょりで指揮をする私と、音楽の高みに向って暑く燃えている部員達。励ますOB。私は、この暑い夏をもう何年間、体験してきたのだろう。ばてそうな夏。頑張る夏。・・・・・結局のところ、大好きな夏。
今年から2つのコンクールに
NHK全国学校音楽コンクールと、全日本合唱コンクール(合唱連盟主催)。高校生にとっては、2つの大きなコンクールがあります。去年までの宇治山田高校合唱部は、ほとんどの年が、全日本合唱コンクールだけにしか参加していなかったようですが、今年から、2つのコンクールに参加することにしました。本番が増えることで、豊かな合唱活動が出来るからです。また、NHKは、8月の前半、全日本は8月後半ですから、目標設定がしやすく、だれる期間がなくなると考えたのです。
従って、夏の合唱部の予定は、下のようになりました。
7月26日・・・・・・・・三重県連合音楽会
8月 9日・・・・・・・・NHK全国学校音楽コンクール
8月10〜12日・・・夏合宿
8月20日・・・・・・・・全日本合唱コンクール三重県コンクール(合唱連盟主催)
練習練習
1:30分開始。4:30終了。腹筋運動に始まり、発声練習、パート練習、全体練習、反省会・・・・。これをほとんど毎日繰り返す。音楽的な要求が高くなるわけですから、集中力が必要です。暑さに加えてのことですから、大変疲れることでしょう。しかし、部員達は、持ち前のユーモラスなセンスと、団結力、友情で、毎日を楽しく乗り切っています。やっぱり、歌が好きなのですね。それに、コンクールに向っていく過程とコンクールの結果が、楽しみなのです。そういった、原動力に加え、OBとの触れ合いがあります。期待され、大切に見守られるというのは、人間誰でも嬉しいものです。OBとの触れ合いは、宇治山田高校合唱部の大切な大切な宝ですね。
さて、そんな部員達にとって、私の存在は、やはり大きなものでしょう。“音楽の高み”という、部員達にとっては、未知の世界へ行くわけですから、指導者がしっかりしなければいけないのはもちろんのことです。選曲、練習方法などは、ベストなものを提供すべきですし、部員達の自主活動を支援する側に立つことも必要となってきます。全部の責任が私にあります。後悔のない、そして次へつながっていく夏にしなければ、と、私の決意も熱いのです。
運動部と兼ねている男子部員達も、乗りに乗ってきました。6月に入った2名の女子部員もすっかり馴染んでいます。逆に、夏になって連絡も取れなくなった部員が2名。とても残念。でも、その他の部員達は、音楽を信じ、仲間を信じ、ひたすら私と共に歩んでくれています。
NHK全国学校音楽コンクール
今年は、私の都合で、7月23日から8月2日まで、合唱部にかかわることが出来なかったのです。連合音楽会も、副顧問の先生に指揮して頂いて乗り切りました。でも、NHKのコンクールがあったため、その後の練習のテンションは、ぐいぐいと上がりました。特に、7日の通し練習は、集中力のあるなかなかのものでした。“集中力”という、短期間で曲を仕上げていくノウハウのようなものを部員達は学んだのです。
当日(9日)は、夏前半の総決算とも言うべき、燃える演奏でした。中学校の生徒達の前で充実した演奏ができ、金賞を頂き、講評でもお褒めの言葉とこれからの課題をいただき、部員達はみんな自信をつけたようです。本番に質の高いいい演奏をすることが嬉しい、という、音楽活動の基本的な側面をしっかりと身に付けることが出来たなら、この日の成果はあったと言えるでしょう。
合宿
翌日からは、2泊3日の合宿でした。場所は、学校。『寝食を共にし、現実感のない時間空間を作りあうことで、音楽に集中しよう!』を合言葉に、指導していただく方々を外部からもお呼びし、たくさんのOBに励ましていただきながらの、夏の大イベントでした。私は、合宿の準備に関しては、ほとんど関わりませんでした。あけてみてビックリ。食事番や、練習計画、お楽しみ計画、タイムスケジュールなどが、全部書き込んである立派なしおりが、用意されています。いつ、決めたのでしょうか。基本的に部員達の手で運営していくのだという、宇治山田高校合唱部の伝統が感じられます。すばらしい伝統です。
私も部員達も、タイムスケジュールに従って、整然と、けじめをつけ、気持ちよく、活動しました。練習以外の部員達の生き生きした姿を見るのは、いいものです。
練習では、各パートの課題の解決に向って、成果がありました。音楽的にも、いろいろな試みに対して、かなりの完成度を見せてくれました。通し練習でも、全体の形が見えてきました。お盆休みを経て16日から始まるラストスパートが楽しみです。
ソプラノの響き作りと全体の音楽的なご指導をいただいた加藤さん、アルトにを愛情豊かに育てていただいた大西さん、ベースの声作りと個人発声のご指導をいただいた野中さん、シュンタ君を始めとする付ききりで盛り上げていただいたOBの人達。たくさんの善意に支えられ、合唱部の音楽は、確実に成長しました。
2日目の夜は、1パート1人によるカルテット大会。OBの人たちも十数名集まっての大変な盛り上がりでした。残念なことに、私は次の日の予定があり、途中で抜けなければならなかったのですが、この夜は、合唱部恒例の、時間無制限のお楽しみ会だそうな。1年で1番楽しい夜だそうです。今年も楽しかったのかな。16日に、部員達に尋ねることとしましょう。
顧問1年目として、ここまでを振り返ると、本当に、いい生徒、いい伝統に囲まれて、音楽的にも順調に来たような気がします。全国の、コンクールに出場する高校生達が、同じようにこの暑い夏を生き生きと過ごしていることでしょう。それぞれの合唱部にそれぞれの個性があり、それぞれの夏があることでしょう。その一つに、深く関われていることに、私は満足しています。そして、お盆があければ、もう少し続く、暑い夏の練習を、部員達と共に、悔いなく盛り上げていきたいと思っています。
2000.8.23
喜びの県コンクール
宇治山田高校合唱部は、2000年8月20日、三重県文化会館で催された『第40回三重県合唱コンクール』において、高校A部門金賞を受賞し、県代表校にも選ばれました。9月23日に催される『中部(7県)合唱コンクール』に参加できることとなりました。
4年ぶりの県代表に、3年生の喜びは、他学年に比べ、深かったことでしょう。翌々日の反省会でも、3年生は全員出席。口々に、感激の言葉と次の大会への抱負を述べていました。「長い1年間だった。いろいろあってやめようとも思ったが、続けていて良かった。」「勉強で大変になるが、休まず、残された練習をしっかりやりたい。」
私にとって嬉しかったのは、《EST》のことを次のように部員達が言ってたことでした。「《EST》の演奏を聴いて、普段、先生が合唱部でやろうとしている音楽が、どういうものであるのかがわかった。私たちは、まだまだ出来ていないこともわかった。」課題曲が同じであるため、わかったのでしょう。「先生の指揮を後ろから見るとどうなっているのかがよくわかって面白かった」とも・・・・。
当日の審査発表では、みんなものすごい歓声を上げました。打ち上げパーティーも、大変な熱狂振りでした。どちらかと言うおとなしい1年生の女子達も、楽しそう。こういう姿は、嬉しいものですね。
肝心の演奏は、テンポが少し速くなってしまったり、課題曲の出の1ページが、ハーモニー感が足りなかったりと、100%のものではなかったのですが、彼らと私との4ヶ月の付き合いが生んだ音楽としては、それなりの味わいのあるものであったと思います。反省会での部員達の顔・意見・様子などを見るに、いい方向に来ているなあとしみじみ思います。練習日も増えてしまいました。練習課題も自分達で見つけています。県代表として演奏する次なる大会は、部員達にとって、未知なる世界ですが、どのように成長するか。顧問として、指揮者として責任もって導いていきたいと思っています。
審査員の先生方からは、次のようなメッセージをいただきました。
伊藤光子先生(合唱指揮者)
<課題曲>
音楽が伸びやかで、音の中にエネルギーがあり、すばらしいです。欲を言えば、ソプラノの高音が平べったいです(中声はすばらしいが)。特に、フォルテになったとき。(各パートの方向統一)
<自由曲>
音楽的な演奏、とても素敵です。言葉もしっかり伝わっています。何回も出て来る“まだ私になれる”を色を変えられたら素敵ですね(計算されて)。
神田詩朗先生(声楽家)
<課題曲>
大変声楽的なロッシーニの曲を真正面からダイナミックに演奏されました。発音もきれいで、特にUの深さが印象的。
<自由曲>
印象に残るのは、素直な発声。そこから生まれる言葉の表現力、音楽的なリズム。
柘植洋子先生(合唱指揮者)
<課題曲>
和声が帰結しません。いい声なのに、ピッチが惜しいです。特にフレーズの終わりの部分。Bellaを歌う前の体制がF#にないと、ソプラノは音程を引きずってしまいます。細部についていえば、他のパートもありますが、全体の音楽の在り様、存在の意味が伝わってくるいい演奏でした。
<自由曲>
ハーモニーの帰結がこの曲でも課題と感じられました。高校生の皆さんの知的な部分が、詩に共感しているのを感じ、コンクールを忘れて、楽しく聴かせていただきました。ありがとうございました。
錦かよ子先生(作曲家)
<課題曲>
深みのある響きがとても美しい。フレーズの切れ目の余韻が、まるで教会の中で歌っているようでした。
<自由曲>
二曲ともとてもよく練習してあり、聴き手の胸に届いてくるものがありました。言葉も厚い響きの中でよくわかりました。もう一つ欲を言うなら、聴き手が予測できない表現をして欲しい。あっと思わせるところが欲しい。
畑 義文先生(声楽家)
大変気に入りました。すばらしい。
宇治山田高校は、奨励賞を受賞しました。生徒達にとっては、初めての宿泊を伴う県外での演奏でしたが、各県のすばらしい演奏に、学ぶところが多かったようでした。
宇治山田高校の演奏
課題曲の第一声から、高いテンションでf→ffを歌うことが出来ました。県コンクールに比べて声が育ってきた実感がありました。やや、ソプラノが上ずりぎみだったのは、緊張感・力みから来るものだったのでしょう。音程でもう一つ、残念だったのは、後半のppのところでした。ソプラノが何小節にもわたり、A音で伸ばすのですが、少し上ずってしまい、他パートと音が合わなくなってしまったのです。練習では、気にならなかっただけに、残念な箇所でした。発語の弱いところ、アーテュレーションのていねいさの足りないところなどもありましたが、全体としては、どのパートもテンションの高い歌いっぷりでした。
自由曲では、言葉も伝わりやすく発音され、少しテンポが走り出す危うさもありましたが、前へ前へ流れてゆく積極的な演奏でした。アクセントなどの表現がていねいに出来なかったところがあったのは、やはり、上半身が硬くなってしまい、余裕がなかったのだと思います。そのため、あっさりと終わった感がぬぐいきれません。力みをとり、重心を下に保っての堂々とした表情豊かな細やかな演奏が、次への課題だと思います。
しかし、27名という少人数の混声合唱ということを考えると、主観的になってしまいますが、けなげなほど思い入れの強い演奏でした。コンサートでの演奏であったならば、おおらかな感動を呼ぶ演奏だったと思います。帰りの電車の中で、ある3年生の女生徒が、「先生、歌っているときに感動して涙が出てきたわ」と言ってくれました。私はしみじみと喜びを感じていました。
印象に残った演奏
NHKコンクールの特徴は、出演校の演奏をすべて客席で聴けることです。そのため、私も生徒達も、いろいろと学ぶところが多かったと思います。
初めに演奏した静岡県立浜松江ノ島高校は、ビブラートのない室内合唱に徹した響きで、私は感心しました。潤いのある落ち着いたその響きは、教会音楽を思わせるようなものでした。ただ、今年の課題曲には、この響きはそぐわなかったかもしれません。この声に合う選曲ができれば、もっと評価されるのではないでしょうか。でも、心に温かく残る、私にとっては大好きな響きでした。
2番目に演奏した愛知県立岡崎高校は、声・表現共に、圧倒的なものでした。深い情感を堂々たる響きで歌い上げていました。特に女声の洗練された大人っぽい声には、指導される先生の長年の積み上げやご苦労の成果だと思いました。高校生をここまでに育てられることに、敬意を表します。私は、全日本コンクールで、岡崎高校の演奏を今までもしばしば生で聴かせていただきましたが、今回が一番洗練され、緻密な音楽でした。100名近くの部員を40名に選抜されていることも功を奏しているのでしょう。
8番目に演奏した石川県立金沢二水高校も、印象に残りました。派手さはないんですが、内面性を深く感じる知的な演奏でした。ppの徹底した緻密さに私は感動しました。課題曲の後半、自由曲の2曲目にそれを感じました。また、フレーズの最後が必ず絶妙なハーモニーをかもし出す。したがって、音楽の流れに安心して身を任すことが出来ました。品のよさを感じる演奏でした。
選曲の方向
8校中6校が、三善晃・鈴木輝昭両作曲家の作品を取り上げていました。お2人とも、私の尊敬する、世界に通じる最先端の作曲家です。確かに、難しい作品が多いのですが、楽譜を丹念に音にしていくことで、温かいメッセージが浮かび上がってくる、理解可能な作品ばかりで、高校生にとっても、時間をかけて取り組みがいのあるものがほとんど。しかも、今の高校生の音感、リズム感は、昔と違って、とても鋭いものを感じます。大人が考えているより、柔軟性をもって歌いこなしていきます。しかも、心を込めて。また、課題曲の作曲家、松下耕も、新しい手法を模索しつづけている若い作曲家です。音そのものを楽しめる作品が多く、若い層に人気のある作曲家です。
私は、若い人たちがどんどん新しいものに取り組み、世界の作曲家が向かっている方向を向いて欲しいと願っています。そのことで、作曲家とも刺激をし合う関係が作れるし、未来を共に見据えていけるからです。 合唱曲は、20年間でものすごく発展し、作曲界の最先端を行くようになっています。そして、合唱指導者、合唱人達も、変わり続け、最先端の作品をこなしつつあります。この日の高校生達も例外ではなかったと思います。これは、望ましい傾向であり、未来への自然な方向だと思っています。
生徒達への期待を込めて
さて、宇治山田高校合唱部にとって、この日の意義は大きかったです。今まで、CDやビデオでしかわからなかった全国レベルの高校の合唱と間近に接することが出来たのですから。このカルチャーショックが、今後、どのように花開いていくかが楽しみです。いいものを知り、いいものに近づきたいと思ったとき、どうすればいいかという問いかけが始まるのだと思います。それをみんなで考え、いいものを生み出す第一歩になれば・・・・・・・。次の、ステージは、23日の全日本合唱コンクール中部支部大会。合唱部の、3年生を含んだ今年のメンバーでの活動は、もう少し、続きます。
2000.10.1
「金賞!全国大会出場権獲得」感激の中部コンクール

宇治山田高校合唱部は、2000年9月23日、岐阜県羽島市文化センターで催された『第53回中部合唱コンクール』において、高校A部門金賞・教育委員会賞(第1位)を受賞し、中部支部代表校に選ばれました。10月28日に催される『全日本合唱コンクール全国大会』に出場できることとなりました。宇治山田高校としては10年ぶり。三重県の高校では9年ぶりの全国大会出場となったのです。ここにいたる練習の過程から、レポートします。
変身
NHKコンクール東海北陸大会で得たカルチャーショックをバネに、それからの練習は、密度の濃いものにしていきました。しかし、3年生の補習授業や模擬試験、体育祭と文化祭の準備などで、夏休みとは違った忙しい環境の中、練習の滞りは覚悟しなければなりませんでした。「9月に伸びるのは難しい。県コンクールのレベルを維持するのが精一杯だ」との外からの声も聴こえる中、何とか山場を作りたい!と考えました。そして、大会6日前の日曜練習が、合唱部変身のきっかけとなったのです。
「この日の練習に賭けよう」と、生徒達とも意思を同じくし、トレーナーの加藤さんもお呼びし、練習開始となりました。ところが、開始時、女子の集まりに対し、男子の集まりが極端に悪いので、(それまでもそうでした。)朝一番から、練習の予定が狂ってしまいました。システムとして、理由つきの遅刻欠席は認め合い、無断はやめよう・・・・・・・・という形をとってきましたが、なかなか一部のメンバーの無断が直らず、それを生徒達同士のやり取りで直していくよう促し、期待もしていたのですが、集中練習がもうこの日しかできないという時に、この男子部員の集まりは致命的です。私は、この日初めて、来ていない生徒たちの家に直接TELしました(最終手段)。案の定、寝坊などが理由であり、1時間もすれば集まることが出来ました。
万全の準備が出来ている女子と、起きたばかりの、音程もままならぬメンバーを含む男子。いいアンサンブルができるはずがありません。それでも、加藤さんの熱のこもったご指導と、私の勢いに、だんだんいい音が鳴り始めます。男声に問題がある箇所は、何度か別室でのパート練習を指示し、また戻ってくるかたちです。 こうして、1時過ぎまで全体練習は続きました。
その後、私は生徒達に訴えました。
「音楽がこれ以上高まるには、君たち1人1人のトータルとしての人間の質が高まらなくては行けない。世界の音楽家といわれる人達は、みんな自分という人間を磨き、それが音楽に映し出されて来るんだ。自分に厳しく、妥協しないんだ。君たちはここへ来て声を出す前にやらなくてはならないことがたくさんある。音楽を高めたいと思うのなら、自分自身を振り返って欲しい。体調管理、表現意志、協調性、信頼感、そして団結。そういったものが、音楽に魂を吹き込んでいく。僕らはそこまで成長する時なんじゃないか。逆に、合唱で学ぶことはそういうことなんじゃないか。」
ここで昼食。午後からは、男声はパート練習となりました。自主的に4時半くらいまでがんばったそうです。
文化祭での発表
例年、県コンクールが8月に終わると、3年生は引退し、1,2年生だけで軽い曲を文化祭のステージで歌ってきたそうです。聴衆である在校生の態度も悪く、乗り気になれない行事だったそうです。今年は、中部大会に出場できたこともあり、しかも、文化祭がその前日であることから、コンクール曲を3年生も含む全員で歌うこととなりました。そして、歌い終わったらすぐ岐阜へ向かうのです。
さて、月曜日からは、練習時間を短くし、翌日に気持ちをつないでいくようにしました。集まりはGood!男子部員もきっちりと時間に集まってきます。やる気満々です。これには嬉しかったです。文化祭のクラス準備を抜けてくるのですから1人1人結構強い意思がいったことと思います。この意思が音楽を支えていきます。中部コンクールに本気で向かっていく姿、伸びていく姿を感じることが出来、私にもエネルギーが沸いてくる毎日でした。
文化祭当日を迎えました(つまりはコンクール前日)。場所は、県営体育館です。朝早くからの自主的なパート練習、ステージでのリハーサルを終え、いよいよ本番です。私は、「絶対、聴衆を静かにさせてやる!」と意気込んで、まず客席に向かって話を始めました。翌日岐阜で歌う曲であること。一夏かけて創りあった貴重な曲であること。曲の説明。詩の朗読までしちゃいました。始めざわついていた在校生達も意を汲んでくれたようです。本番は、照れもなく、ひたむきに楽しく演奏できたようです。心地よい拍手が私が振り向く前に来ました。例年の文化祭とは違ういい印象を生徒達は受け取ることが出来ました。音楽は誠意です。聴衆は変えることができるのです。やればできる。このことを実感し、いよいよ、岐阜へ出発です。
岐阜の旅館での練習
列車の中の静かさ、マスク(声を出さないようにするための)をしている生徒の増加、集団行動のスムーズさ・・・・・。NHKコンクールで名古屋へ出向いた時とはえらい違いです。経験は生きています。
練習は、旅館の大広間にて。まずは文化祭の反省と明日への抱負を全員が発表し合います。
「金を目指そう」「いや、無心で悔いなく歌いたい」「求めてるものは同じだよ」
前向きな気持ちのつながりが練習へのエネルギーを生んでいきます。
練習は、前日であろうが、普段と同じメニューで進めることとしました。発声もていねいに。課題曲は音程の決めにくい箇所がいくつかあります。体の使い方、イメージの持ち方、細かいメモリを持つようにトータルな面から進めて行かなければなりません。生徒達のテンションを上げることとのバランスに気をつけながら、かなり中身の濃い練習をしました。緊張感の持続、旅疲れとの戦い、生徒達も大変だったでしょう。
宿泊した穂積町の“松琴亭”は、小さな旅館でしたが、目の前にお城の天守閣がそびえ、大きな河と水鳥の、いい景色でした。心落ち着くのどかな時を過ごせました。貸しきり状態で、ある意味、恵まれた環境でした。翌朝も、早くからお城へお参りに行ったり、川辺をジョギングしたりと、生徒達は本当に元気です。6:30からの朝食、7:30からの練習も、みんな元気な顔を見せてくれました。
朝の声のアップの難しさは、NHKの時の反省点でした。生徒達もこのことはよく知っています。朝のジョギングもいい声を出すためのアイデアだったのでしょう。この日、7:30になる前から、大広間では自主的に声を出しています。この成長振り。宇治山田高校合唱部は、人間的にも立派な県代表の合唱部と、名実ともに言える集団に成長していました。
とは言え、朝の練習の持っていき方は、私にとっても難しいものがあります。1人1人のアップに差があるため、一斉指導がしにくいのです。加藤さんが1人1人の横へ行って細かいアドバイスをされます。一斉指導と個人指導を平行させながら、練習は進みました。8:50。いよいよ、宿を出発です。
本番にベストな演奏が
羽島文化センターは、レンガ造り風で、外観の一部がギリシャ建築を思わせるようなすばらしい建物でした。ホールの響きもすばらしく、特に、ステージは、前よりも奥の方が響きがいいようでした。生徒達全員でホールの見物を終え、さあ、リハーサルです。
知らない会場ということもあり、落ち着きのないままリハーサルに入ってしまい、課題曲の音程が下がります。しゃっくりの止まらない生徒が複数出るなど、少々あせりましたが、それでも、みんなのエネルギーの方が勝っていたようです。与えられた時間内のリハーサルでしたが、自由曲の一部を犠牲にして、もう一度課題曲を通しました。これはうまく行き、一安心。少ないリハの時間内にもドラマあり。最後に、円陣を組み、無声音で「オー」。
「3年生にとっては引退前の最後のステージになるだろう。せめて、悔いなく、いい演奏をさせてあげたい。」そのために、NHKコンクールにも出場し、ステージ慣れをしてきました。県外遠征のノウハウも理解し、集団としての質も大変高くなりました。転勤してからの5ヵ月半の思い出が、ふっと脳裏をかすめ始めた頃、いよいよ本番となりました。
ステージに出て行く生徒達は、みんないい顔です。「がんばろう」短い会話を出て行く一人一人と交わします。そして、私が出て行き、みんなの方を振り返ります。おっと、全体的に右に寄っているではありませんか。さて、真中に移動させるべきかどうか。私は、緊張した面持ちでまっすぐ私のほうを見ている生徒達に余分な負担をかけないでおこうと思いました。私が、少し右へ寄って、バランスをとりました。さあ、演奏開始です。
曲の冒頭から密度の高いハーモニーが生まれます。会場の響きがとてもよく、気持ちよく演奏できます。音程の決まりにくいところもなんたかうまく決まっていきます。自由曲の複雑なリズムもうまく出せ、最後の盛り上げは、ゆったりしたテンポで力いっぱい、音程も崩れずに表現しきれました。もともとメッセージ性の強い曲だけに、リズムと音程が決まり、最後までエネルギー切れにならなければ、いい演奏になる・・・・と願って指揮台に立ったのですが、本番が一番良かっただけに、私も生徒達も大満足でした。ステージを降りると、私と感激の握手です。
顔がくしゃくしゃ!審査発表
審査発表は、出演順でした。1番目の団体、2番目の団体が発表され、いよいよ宇治山田高校の名前がマイクを通して会場に響きます。私は、なんとか、銀に入ればいいが・・・・と、祈るような気持ちでしたが、「金賞!・・・・・・・」と、聞くや否や、まず、みんなで「えっ!」と、小さな声で。その後、「わーーーっ!!」と、歓声が上がりました。特に私の周りの生徒達は、すごい歓声で、後の言葉が聴こえなかったのです。実は、直後に、「教育委員会賞!全国大会出場!」と、言われたらしいのですが、知らずに、「全国大会には、他の学校が行くだろうなあ」と、回りの生徒達と話しながら、それでも喜びで泣いている生徒達でした。ところが、最後まで聴いても、全国大会出場の団体数に1つ足りません。「あれ、おかしい。もしや!」と、みんなで慌てる中、
「改めて、全国大会に出場を決めた団体を申し上げます。まず、三重県立宇治山田高校!・・・・」
「わーーーーーーー!!!」
何とも、人の話を最後まで聞かない典型のようなお粗末な歓声でしたが、このときの生徒達の気が狂ったような喜びよう(実は私もですが・・・)は、ものすごかったです。ロビーに張り出された採点表を見て、また歓声です。駆けつけていただいたたくさんのOBの方々とも、抱き合って喜びを分かち合っていました。
出口のところで、校歌を大合唱。その時、三重県立津高校の部長さんたちが、千羽鶴を持って、激励に来てくれました。同じ県代表校としての友情です。大切に、福島県まで持っていきます。2,3年生は、昨年まで、県コンクールで悔しい思いをしてきたはず。喜びに舞い上がっている他の合唱部の生徒達の横を顔を伏せて通り過ぎてきたはず。この日は、立場が反対になりながらも、他の合唱部の生徒達の気持ちは、心のどこかに刻まれたことと思います。心豊かな合唱活動を望みたいと思っている私です。福島での全国コンクールでは、さらに磨きをかけた音楽を必ずやしたいものです。
生徒達は、まだ、泣いています。舞い上がっています。このまま、バスに乗って、打ち上げ会場(穂積駅の近くに予約しておいたのです)に。その後の様子は、OBの山本シュンタ君にレポートしていただきましょう。画像集によるレポートです。
OBの山本俊太氏 のHPによる喜びの画像集
2000.10.26
全国大会までの日々(日記)
10月8日(日)
OBの方々が多数、現役たちを激励するために集まっていただきました。この日は、朝から練習にも熱が入ります。それもそのはず。隣の準備室には、先輩方が続々と集まってきます。少しでも、いい演奏をしよう!OBの方々に聴いていただこう!そのために、はりきって練習に励んでいるのです。なかなか、部員全員が集まる機会がないだけに、この日、OB会(宇治山田高校合唱部には伝統あるOB会があります。)の発案で、激励会を催していただいたのは、本当にありがたかったです。
11時。練習にもめどがつき、OBの方々に、音楽室へ入っていただき、いよいよ、演奏発表です。なかなかいい演奏ができました。声量が出てきたなあ。表現も積極的。音程、部分的にやや難。新鮮な演奏ではありました。
その後、部長挨拶。OBお一人お一人の感想発表、激励と続きました。ありがたいですね。県外からも集まっていただき、世代を超えた強い絆が感じられます。生徒達は本当に嬉しそうです。力強いんでしょうね。自分達の今までの営みに自信を持てた機会でもありました。1年生も立派に先輩たちに応対しています。5月の新入部員歓迎会のときのはにかんだような不安げな陰はもうどこにもありません。
昼食後は、OBの方々も各パートに入っていただいてのパート練習。どんなひと時だったのかなあ。
10月13日(金)
この日は、校長先生のお計らいで、校長室で表彰伝達式をしていただきました。
「高校A部門での全国出場は、三重県としては10年ぶりのことらしいですね。そして、10年前も宇治山田高校でした。皆さんの歌声は、いつも校長室まで届いています。特に9月に入り、男声の声がめきめきと上手になってきたような気がしていました。私も、三味線を趣味にしていますが、音楽というものは、頭も体も心も使います。全国大会でも、精一杯頑張ってきてください。私の望んでいる、“品格のある山高生”を目標に、りっぱに行ってきて下さい。そして、できれば、普段から、中庭やホールで、気軽に生徒達に、合唱部の演奏を聴かせてやっていただきたいと思っています。」
校長先生のお話を部員全員で襟を正して聞きました。堅い話や、窮屈なことを嫌う現代の高校生ですが、この時ばかりは、うれしかったことと思います。学校から、旅費と宿泊費をいただいての出場です。期待されているという自覚が、また、彼らの演奏をもう一つ押し上げてくれることでしょう。
中間テストで、クラブもお休み。21日からの6日間で、どんな音楽をしてくれるか!
10月21日(土)
テストが終わり、久しぶりの練習日。ところが、風邪を引いている、腹が痛い、徹夜あけで眠い・・・・・。様々な症状を訴える生徒達。テストに、全力投球したんでしょう。女声がどうも貧弱、ハーモニーも決まりません。細かく音楽しましたが、後6日。目標は、“個性的な音楽つくり”です。思いっきり表現して、のびのびと、楽しい全国大会に!明日がそのスタートだと思うことにします。
10年前に、全国大会に出場したOBの方が、家族で応援に来てくれました。生後半年の赤ちゃんを連れてです。「10人いた3年生が全国大会は4人しか出なかった。他の学校に圧倒されて、確か順位も最下位だった。でも、すごい思い出だった。」と話していただき、生徒達は真剣にうなづいていました。今年は3年生は1人も欠けずに全員出場です。みんなで、3年生に感謝の拍手をしました。 本番までの6日間。受験勉強との両立に苦しみながらも、最後まで歌に賭けてくれる3年生のためにも、1日1日をかけがえのない体験の日々にしてあげたいものです。
10月22日(日)
朝から、集中練習。ヴォイストレーナーの加藤さんも、指導に加わっていただき、OBの方々にも見守られての燃える練習でした。やっと、感覚がみんなに戻りつつあります。体を使って歌う感覚、本当のハーモニーに浸る感覚、アンサンブルの感覚。この日のエネルギーを明日からの調整練習に維持できれば・・・。
お昼からは、各パートの自主練習。たくさん来ていただいたOBの方々との、いいひと時を過ごせたのではないでしょうか。それにしても、OBの方々の母校合唱部に寄せる思い入れ・愛情の深さを感じました。
10月24日(火)
今週は、時間を短くしての集中練習です。テンションを上げたまま、心も体も最高の状態に持っていくためです。中学生達が見学に来ます。また、他校の合唱部の先生が励ましに来られます。一つ一つを貴重な時間として、歌に魂を入れ込んで行きます。あさっては、出発の前日ですが、ミニコンサートを企画しました。先生方もお誘いし、コンクールを前に、自分達の演奏を披露するのです。チラシを配り、ポスターを掲示し、お客さんを募ります。何よりも、自分達の演奏に誇りを持つことができてきていることが一番嬉しいですね。楽しみです。ミニコンサート!
「日曜日の昼から1人1パートのカルテット練習をしたよ。すごくうまく行ったチームがあったよ。」と、ある生徒が教えてくれました。たくさんのOBに囲まれ、充実した時間だったようです。そこで、そのチームに歌ってもらったところ、本当に上手でした。私は夏の合宿以来、カルテットを聴いていなかったのですが、ここまで、緻密にできるとは!感激でした。その後、今度は、各パートばらばらに入り混じっての練習。これもうまく行きました。三善作品をこんな形で通せるなんて! 最後のパート反省会でも、「気持ちよかった―」と1年生部員が言っています。「明日もやりたい」という声も。
10月26日(木)
ミニコンサートは、暖かい雰囲気の中、大成功でした。終わった後の、私たちと、来ていただいた先生方や生徒達とのひと時の触れ合いが、なんとも良かったです。ちょっとしたサロンコンサートのようでした。初めての企画でしたが、出発前のいい刺激にもなりました。今後も続けられたらいいですね。
今週は、毎日、OBが励ましに来て下さったり、お祝いが届いたりで、ありがたかったです。今日のミニコンサート後の練習も、表現が良くなるとみんなで拍手をして喜び合ったりで、とてもいい雰囲気です。ハイテンションのまま、いよいよ、明日出発です。志を持って高い次元で楽しんでこれたらと思います。
なお、これまでに、全国大会出場を祝して、44人ものOBの方から“お祝い”をいただきました。感謝の意味をこめて、下に、お名前(敬称略)を記しておきます。
S.42卒 東村
S.47卒 坂井
S.51卒 足代、谷川原、西場
S.52卒 泉、森岡
S.56卒 玉木
S.59卒 小倉、高嶋
S.60卒 西川
S.62卒 井上、濱口、東世古
H. 1卒 加藤、濱口
H. 2卒 松田
H. 3卒 坂田、前田
H. 4卒 滝沢、寺尾、中西、中西、山本
H. 5卒 櫻井、森本
H. 6卒 荻田、多田、西田、平井
H. 7卒 松田
H. 8卒 花井、松嶋、山本
H. 9卒 西井
H.10卒 太田、黒谷、中川、堀井、茂利
H.11卒 小林、浜口、福井、前田
また、本校の先生方、三重県合唱連盟、元顧問の中西先生、旅行会社JTB、からも、お祝い金をいただきました。この場を借りて感謝の意を表したいと思います。本当にありがとうございました。
曲目・・・・・高校(A) | 高校(B) | 中学(混声) | 中学(同声) |