2001.7.30
第18回宝塚国際室内合唱コンクール
2001年7月28日、Vocal Ensemble《EST》は、第18回宝塚国際室内合唱コンクールにて女声・混声両部門金賞を受賞しました。

「響きを変えたい」過渡期の《EST》
ドイツで学んだことのひとつに、“響き”の問題があります。今回の演奏で、響きのある音色を目指しました。高い倍音をたっぷり含む響きのある声で、音色を統一したかったのです。効果は短期間では出ませんが、方向性は打ち出せたと思います。音色の安定、落ち着いた演奏、傷のない演奏を実現することができました。ただ、その上で、音楽的な思い切った表現に徹したかったのですが、この両立が難しかったです。すべてのメンバーが声の可能性を存分に出し切ったインパクトの強い演奏・・・とは言い切れなかったです。“響き”に意識が行き、個々の声の魅力を抑えてしまったということがあったような気がします。この方向性の延長線上に、楽譜の要求する多彩なる表現を、今後実現してみたいものです。
つまり、過渡期なのです。しかし、大いなる未来の姿がはっきりしている過渡期です。迷いはないです。完成された姿はこのコンクールで見ていただくことはできなかったですが、新しいサウンドの方向性が評価されての金賞だったのではないでしょうか。
千原先生が駆けつけてくださった!
作曲家、千原先生と感激の対面が、今年の宝塚の体験でのハイライトです。この出来事は誰も予想できなかったのですから。
発端は、プログラムのアコール《EST》の紹介のところに書かれた次の文章でした。「本日演奏するAve Regina・・・をノイシュバンシュタイン城の前で松下耕先生に聴いていただいた感動の気持ちを忘れず、日本の現代作品を世界に発信!を合言葉に・・・・・・・・・」 これを見られた松原千振先生の奥様が、夜のパーティーの時に私のところへ来られ、こうおっしゃられたのです。
「やはり、作曲家の方に聴いていただくのはうれしいものですか?」
いつもきれいな方ですが、この時ほどこの方が高貴な方に見えたことはありませんでした。なんと、私たちが演奏した「おらしょ」の作曲家、千原英喜先生を翌日の入賞団体記念演奏会にお呼びしていただけるというご提案を頂いたのです。
松原先生は、「おらしょ」の初演をして見えます。そして、千原先生は宝塚の近くにお住まいだそうです。そんなこんなで、夜、直接に千原先生にお電話する機会をいただき、翌日は、客席で、私たちの演奏を聴いていただいたのです。直後の《EST》の動きは、ご想像通りです。どどどっと走っていきロビーでご対面。ご意見をいただき、そのままみんなで記念写真! 休憩の間中騒いでいました。千原先生は、とても誉めてくださいました。作曲秘話のようなものも教えてくださいました。12月のコンサートにも来ていただけるかもしれません。
入賞団体記念演奏会
さて、その入賞団体記念演奏会ですが、コンクールで金賞・銀賞を受賞した団体が出演。今回も、洲脇先生の親しみ深い、しかし、いろいろな知識の得られる名司会の下、催されました。前日はほとんどどの団体の演奏も聴くことができないだけに、この演奏会は貴重です。
混声部門金賞(総合1位)の、“オックスフォード大学スコラ・カントゥム”は、安定したアンサンブルに、本場の自然体を感じました。創立41年目の伝統を誇り、レナード・バーンスタインや、コリン・デービスなどの有名な指揮者とも共演されCDを12枚製作しているというプロフィール。特に、ベースの低声から高声までの魅力的な声に感心しました。タリス・スコラーズを思わせるような響き。やはりイギリス。迷いはありません。
女声部門金賞(総合2位)の、“カンティカム・メル”は、ベネズエラから、まず、ニューヨークで一泊、成田で一泊、そして宝塚に前日到着と、4日かけてコンクールに出場してくれました。審査発表でも国旗を大きく振っての涙涙の感激振りでした。お国柄と、このコンクールにかける思いを垣間見た気がします。さて、その演奏ですが、歌って踊って、客席まで降りてのダンス音楽のオンパレード。南米がそのままステージにやってきた!というような楽しいものでした。声よりも、リズムと踊りのパフォーマンスショーを見たような感覚。こんな室内合唱もあるんですね。
《EST》は、女声と混声で2グループ分の時間をいただき、正味25分間、演奏させていただきました。演奏が小さくならないように心掛け、千原先生の曲は、前日よりゆったりしたテンポで丁寧に歌い上げました。演奏は生もの。環境が変わればがらりと変わります。面白いものです。この日の演奏は、前日のコンクールより、《EST》らしさが発揮され、楽しい達成感のあるものでした。ブラボーもいただきました。インタビューでは、ドイツのお話などさせていただきました。去年、「今後の夢は?」と洲脇先生に聞かれ「海外演奏をしてみたい!」とお答えしたことがきっかけだったことが話題になり、「思っていることは言うものだという事がよくわかりました」と言うと、会場はどっと笑ってくれました。ちょっとはめをはずしたかな。演奏直後、“オックスフォード大学スコラ・カントゥム”の指揮者Mark Shepherd氏が駆け寄ってきてくれました。固く握手。これで十分。お互いの音楽を通じての友情の誕生です。
パーティー
このコンクールのいいところは、夜のパーティーです。広いホールに、コーラスメンバーも審査員も係りの方々も集います。立食形式でお酒も入り、みんなが仲良くなります。
ステージでは、台湾、イギリス、ベネズエラの合唱団の演奏、そして《EST》もお呼びがかかりました。ドイツのファイナルコンサートで歌った思い出の「赤とんぼ」。にぎやかだった会場がシーンとなって集中して聴いていただいているのがわかり、演奏冥利につきました。司会の方から、「もう1曲」といわれ、ラッソのマドリガルを。大きな拍手をいただきました。人数制限でコンクールに出られなかったメンバーも、それから《EST》のOBで応援に駆けつけくれたT氏も、そして、審査員の片山先生も入っていただきました。
最後は、ベネズエラの方々のリードで、会場中が踊りの渦に!《EST》のメンバーは、ドイツですっかりこの雰囲気に慣れています。何のテレもなくフィーバーしていました。案外イギリスのメンバーが大人しかったかなあ。
審査員の先生方と
専門の方々に、演奏上のアドバイスをいただき、現在を知り、未来を探る・・・・。合唱団の未来を形作る上で欠かせないことです。その意味で、世界を日本を代表される方々からお一人ずつ直接ご講評をいただけるこのコンクールは、大変貴重です。エストニア、ベルギー、台湾、そして日本から、計9人の先生方。今回も、パーティーで、そして翌日の合評会で、しっかりと各先生方のご講評を胸に刻みました。その録音を基に、ここに記しておきたいと思います。
<ラッソ:S’io esca vivo (混声)>
・僕は最高点をつけている。本当に素晴らしかったと思う。これは半音下げて行ったんですね。これを私はよい試みだったと感じる。半音下げたけど、非常に透明感のあるよい響きが出来ていたと思う。あなたの団体は、なぜラッソと言うのか。イタリアで彼が活躍したときの名前はラッソだから、何かこだわりがあるのかと感じた。ラッススはフランドル語でしょ。彼のふるさとのもとの名前。まぁどっちでも構わないけど。(日下部先生)
・ESTの演奏が終わって、すぐに振り返って州脇先生に「この演奏は、このグループは素晴らしい」と言った。歌い手たちが、非常に楽しんで歌っているのが印象的だった。心から歌って見えた。エンジョイしてた。(ラウル先生)
・音が決まりにくい。天井をうまく使って、声を抜け切るように歌ってほしい。声が伸びている間に、よく動く事。音の姿が見えにくい。←フレーズの中心音が見えにくい。(片山先生)
・選曲は良い。男声が荒い。(林先生)
・この間よりも非常に良くなった。もっと倍音を含んだ響きを。かぶさった声じゃない声を。高い倍音が良く聞こえる声を。オープンに。表現にも幅が出てきた。(当間先生)
・良い響きでした。テンポも良かった。ポリフォニーも良かった。ラッファナータ→2つのエフが見えるように。やりすぎると不自然だけれども・・・。明瞭に歌おう。言葉の意味が分かるように。言葉が命令形だとか、・・・。(ブリーゲン先生)
・アルトが突出してしまう。ソプラノとのバランス感覚の問題だと思う。乱雑だった。(吉村先生)
・母音を明瞭に。口の中の面積をうまく使って歌ってほしい。上手にコーラスを配置されて、ステレオ効果が良く出ていました。(中村先生)
<千原:「おらしょ」2(混声)>
・これも良かった。最後の盛り上げ方が素晴らしかった。音楽の作り方は、素晴らしい。この音楽が持つプリミティヴな・・・シャーマンな感じが良かった。曲のよさもある。演奏の仕方も良かった、アッチェレランドしてたよね。おらしょは、もともとがプリミテヴな音楽だから、インテンポでやるものではない。群集の自然なテンポの動きが良かった。(日下部先生)
・とてもダイナミクスがあった。バランスも良かった。声も融合されていた。リズムやレガートがうまく混ぜられて歌っていた。私は、最高点をつけた。(ラウル先生)
・凄く素敵な演奏でした。もとのおらしょがよく感じられた。言葉が非常に分かりやすかった。(片山先生)
・選曲は良い。男声が荒い。(林先生)
・練習番号3ですが、早すぎる。あんなに速いのに、言葉が良く聞こえている。お祈りが感じられない。「あんめ」の前に、弱くなってしまった。グレゴリオ聖歌が素晴らしい。(当間先生)
・とても良かった。高い音も大変きれいだった。ユニゾンが美しかった。日本語と、ラテン語との混合が素晴らしかった。グレゴリオ聖歌は美しかった。(ブリーゲン先生)
・とてもよかった。「あんめ」の部分が、70人くらいの合唱団が歌っているように思った。ピッチが決まっていなかった。室内楽でない。(吉村先生)
・初演を聞きましたが、・・・。もう少し信仰の喜びといった部分で、曲の作りが暗いのではないか。もっと、表現の幅を。一人一人、自発的に歌ってください。指揮者が良くコントロールされているだけに、一人一人の魂のさけびが聴こえない。(中村先生)
<松下:Ave Regina Caelorum(女声)>
・メカニックな曲だけれども、同時に心情というかエスプレッシーボな部分が加わると良かった。(日下部先生)
・とてもよい選曲です。非常に難しいリズムがあるけれども、とてもよく歌えていた。音楽的にも技術的にも、良かった。(ラウル先生)
・リズムが安定せず忙しい。和音のきめが・・・。言葉が分かりにくい。アヴェアヴェがお祈りにならない。下に落ちない音を。(片山先生)
・良かった。ラテン語だけど日本人の作曲家だから、嬉しいね。もしも僕なら、日本人の曲を1つ選んで、後は外国のものを選ぶ。いろんなものを聞きたい。(林先生)
・発声がよい。ソプラノがもう少し抜ければよいなぁ。母音の違いをつけよう。発声のやり方としては、OKなんだけれども音楽を聞かせるという点においては、母音にもっと意味を持たせなくいてはいけない。(当間先生)
・暗い響きがある。アルトからその影響があった。祈りを忘れないで。(ブリーゲン先生)
・なかなか魅力的。(吉村先生)
・アルトのGの音→芯になっていない。核音でなくなっている。そのために、構成感がなくなってしまう。(中村先生)
<鈴木:「星翠譜」より(女声)>
・詞を明確に。発音を明確に。(日下部先生)
・3曲目はコントラストがついてとてもよかった。2曲目は、声が高いところから低いところまで沢山あるけれども、どこにいってもむらなく声が聞こえていた。最高です。(ラウル先生)
・言葉が分かりにくい。3曲目は良い。(片山先生)
・とても良い曲だ。詞が良いんでしょうね。現代の作曲家の人達は、難しい音を使うよね。3曲目なんかは、「ふたご座の〜」の後のメリスマが力の抜き具合でもっと流動性のあるものになるのではないか。でも、とてもきれいでした。日本の歌を歌ってくれるのは嬉しい。(林先生)
・言葉が、不明瞭。立ち上がりが良い。アンサンブルが良い。(当間先生)
・この曲に、貴合唱団が合わない。(ブリーゲン先生)
・この難しい曲を、よく歌っていた。部分的な音の処理を気にしたせいなのか、自分たちが練習でなんとなく処理できた状態に落ち着いてしまっている。自分たちはこうなりたいという主張でなくて、練習の間に決まってしまった要素が見受けられた。悪く言うと素人っぽい、よく言うと無難。作曲者の意図や音のイメージを、都合の良い処理にしてしまった。よく訓練されている。(中村先生)
第18回宝塚国際室内合唱コンクールのHP
向井正雄のホームのトップへ
2001.9.27
全国コンクールへの切符を獲得!!
〜第54回中部合唱コンクールで金賞・知事賞
2001年9月23日、Vocal Ensemble《EST》は、第54回中部合唱コンクール一般A部門にて、金賞、また三重県知事賞(1位)を受賞し、中部地区代表として来る11月24日に郡山市で行われる全国大会への出場が決まりました。
実りつつある《EST》サウンド
発声を見直し、室内合唱の理想のサウンドに向かって努力を続けている《EST》ですが、このコンクールでは、そのサウンドが宝塚のときよりかなり実ってきた感がありました。
課題曲のパレストリーナ作品では、ある審査員は、「会場を魅了する力があった。とても明るく、軽く、しかも広がりのあるソノロティーで、音楽表現は、丁寧なのに重くはない。他団体とは違う個性となっていて、とても良かった。」と話していただきました。私たちの表現の方向性をとてもよくわかってみえる気がして、うれしかったです。この評価こそ、私たちが待っていた評価です。
ただ、まだまだ、お勉強感覚が残っています。歌い手自身がこの音色で作品の持つ魂の部分を100%表現するところまでは行っていないのです。このことは、ある審査員の「女声が、腕力を振りかざすように歌って来ないのはいいが、リードヴォーカル的な面から考えると、少し弱い。」と言われた事が当を得ていると思われます。
自由曲1曲目のラッソのマドリガルは、ソプラノが2声に分かれる6声の作品ですが、やはり、女声のポリフォニーとしての線の存在感が少し弱いと、ご指摘を受けました。発声は、この方向で行き、呼吸に仕方や発音の見直しなど、磨きをかけていきたいと思っています。
自由曲2曲目の鈴木作品(「詩華抄」第2曲)は、何度かステージで演奏し、ドイツでは、現代音楽の解釈における最優秀の評価を受けたものですが、今回は、複雑なサウンドをさらに美しく響かせることができました。作曲者ご自身が、今回の審査員として来られたのですが、「説得力があった。美しい響きをたくさん聴くことができた。自分の作品だからといってひいき目に審査したのではないから、自信を持ってください。」とまで、おっしゃっていただきました。
このように、響きを上に持っていき、倍音の多く含んだ突き抜けるような明るいサウンドを求めてきましたが、個性として、何人かの審査員の方々にいい評価をされたことは、本当にうれしかったです。いろいろと心配はありました。個性を個性として受け入れてもらえないのではないか。従来のようないわゆる力演を期待されているのではないか。“好みが合わない”と片付けられるのではないか。等等です。ドイツで学んだ室内合唱のサウンド。この方向性を宝に、これからもがんばっていきたいと思います。
ただ、もっともっと、フレージングに自発性、1人1人の音楽的確信のようなものをはっきりと打ち出していかねばなりません。地声交じりでまっすぐに飛んでくる声ではなく、響きを伴ってホールを包むような方向ですから、そこに、体を使って個々が今までよりもはっきりと主張しないと、ただのきれいなコーラスで終わってしまいます。全国コンクールまで2ヶ月近くありますから、必ずや、課題意識をはっきりと持って、練習に臨みたいと思っています。
新しい団員が達成感を感じてきたのが嬉しい
「金賞!」と告げられたとき、メンバーたちはまだ喜べませんでした。まだ、全国大会への出場権を得たわけではないからです。「続いて、各部門1位である知事賞の発表。一般A部門。Vocal Ensemble《EST》!!」ここで初めて、堰を切ったようにみんな歓声を上げました。ステージの上では、代表の2人(鈴木、加藤)が涙を浮かべています。連盟の係りとして賞状と縦を渡す役割の2人も実は《EST》のメンバーだったのですが(稲垣、豊島)彼女らも泣いています。それ程、手に入れたかった全国大会への切符です。期待されながら、結果が出ない・・・。毎年のこのくやしさが、念願かなっての涙となったのでしょう。
打ち上げパーティーでは、今の思いをみんなで発表しあいました。嬉しかった言葉は、ベースの新人の加藤君。「ドイツや宝塚は、どちらかというと、受身的だった。今回は、自分が頑張ることによって達成されたような気になっている。だからうれしい。自分が《EST》の団員としての自覚の元にがんばった証なのだから。」
思えば、ドイツに行くということで、若い団員が増えた《EST》。ミーハー的な気持ちから、自分も《EST》を支える一員だ!という気持ちに変わって来ているのです。古いメンバーはうれしいでしょう。私もうれしいです。メンバーが増えて崩れかかった《EST》サウンドが、持ち直すどころか、装い新たにさらに磨きをかけてきたのですから。
さあ、次回からは、コンサートとコンクールを平行しての練習です。楽しさ盛りだくさんです。
2001.10.19
1ヵ月後の全国大会。その2週間後の定期コンサート
ドイツ11日間の音楽の旅を始め、これまでで最高に忙しく、最高に充実している2001年。Vocal Ensemble《EST》は、その集大成として、1ヵ月後の初の全国コンクール、その2週間後の定期コンサートに向かって活動しています。
全国の聴衆に《EST》の最新の音楽を
念願かなって、全国コンクールに初出場する《EST》に、ドイツに同行された“プレイヤード”の皆さんをはじめ、関東、関西の合唱団の皆さんから応援のメールが届いています。また、福島県まで聴きにいかれる方々が三重県内の合唱愛好家にもみえ、やはり、大きなイベントであることを再認識させられます。
全国コンクールに出場する目的は、言うまでもなく、《EST》の最新の音楽を全国の方々に聴いていただくことです。また、ライブCDの発売などにより(これがまたよく売れます。)演奏が後々まで残りますから、今出来る最高の演奏をしたいと思っています。そして、全国の合唱団の方々との友好を深め、心開いて音楽する幸せを分かち合い、後の合唱活動を誇りを持って続けていくエネルギーを持って帰って来れればと思います。
“最新の音楽=最高の音楽”となればいいと思います。それには、どんな演奏を目的とし、そこに行くためにどんな練習をすればいいかを、全体として、パートとして、個人として、明確化することでしょう。それが出来たら、とにかく努力努力。全員が前向きに志同じくし、ひとつの夢に向かって向かっていくのです。お互いの努力を尊重できるような固く結ばれた仲間になることです。
清潔で美しいイントネーション
私が《EST》に打ち出しているのは、《清潔で美しいイントネーション》です。そのためには“声の均一化”が欠かせません。そして、そこに向かうための一つの発声法として『ヴォーチ・デ・フィンテ』を取り上げています。
何事も、徹しようとしたときに思いもよらぬ障害が出てくるものです。『ヴォーチ・デ・フィンテ』に対してすっと順応できたメンバーと、なかなか今までの発声の癖が抜けきれないメンバー。発声法そのものに対して半信半疑なメンバーと、それを聞き、ショックを受けるメンバー。「音楽的な向上が見られない」と嘆くメンバーと「もう少し時間がほしい」と訴えるメンバー・・・・。暗礁に乗り上げたような重苦しいムード。
音楽をリードできるメンバーが伸び伸びとでき、1回1回の全体練習で確実に向上できる合唱団作りが問われているのです。一人一人が問題を感じ、整理し、行動に表し、そのレベルでお互いを尊重し合えるメンバー。アンサンブルシンガーとして備えなければならない人間的な資質はここにあります。
私の役割は、全体練習でいかに理想を掲げ、理想に近づく喜びをいかにみんなと音楽で示すかということでしょう。そのことで、個人練習やパート練習の新たな課題と、その課題に向かうエネルギーを生み出すことができれば、“個人→パート→全体→個人……”とうまく循環し、暗礁からすっと抜け出すことができるのです。
《清潔で美しいイントネーション》を実現すれば、美しい響きがそこに生まれます。そして「倍音と結合音」が鳴り渡ることによってその響きは充ち、輝き、神秘的なものになります。明るく透き通った響きは、演奏作品の深いところをも照らし、予想もしない美しい響きの虹を浮かび上がらせるでしょう。(逆に響きが濁っている場合は、作品それ自体にベールがかかり、指揮者にもメンバーにも、もちろん聴衆にも、よく見えなくなっていくでしょう。)
全体練習の目的と、個人練習の目的
全体練習では、声の均一化を図り、響きを増し、倍音を意識しながらフレーズを歌い進めることから始めています。大切なことは、全体の中で自分の「融合」としての存在を耳で捉えることです。ポリフォニーの中で絶えず敏感に耳を働かせること。これは、容易に達成されることではなく、その日出来たとしても、次の時にできるとは限りません。みんなが練習に参加し、みんなで毎回毎回作っていくことなのです。全体練習はこの一点に絞っても時間が足りないくらい、大切な練習です。
そうなると毎回の個人練習がウエイトを占めてきます。《EST》では、練習の最後にパートミーティングをしていますから、そこで今回の練習の大切なところと次回までの課題が整理されます。練習欠席者へは連絡が行きます。最近は、パソコンとFAXを駆使して、即座に細かい連絡も行き渡っているようです。
個人練習の目的は、全体練習の目的を高いレベルで実現させるための基礎作りです。具体的には、日々の発声と譜読み(暗譜)でしょう。中には、次の練習を予想し、課題を解決してくるメンバーもいます。トレーナーから練習前にアドバイスを受ける光景も。また、トレーナーと日を決めて個人レッスンに行かれている熱心なメンバーもいます。
大切になってくるパート練習
パート練習は、個人と全体とを結ぶ掛け橋です。個人のレベルを上げ、全体練習でのパートの響き作りをし、メンタルな面でも結束できる大切な場です。なかなか仕事などで男性などは集まれないのでは・・・と思いきや、一番熱心なパートはベース!これからは全パート活発に行われていくのではないでしょうか。
パート練習をリードするメンバーは、全体練習で何が足りないかを判断できなければなりません。そして練習を盛り上げていくエネルギーを備えなくてはならないので、音楽的判断力と人望も欠かせません。どのパートもうまくパート練習ができるようになれば、全体練習はまたまたグッとレベルアップすることでしょう。
私は、この個人練習・パート練習に関しては、あまり口を出さずに見守る立場をとっています。もちろん、要望があれば駆けつけますが。各パートを見てると、パートの個性剥き出しで面白い。いや、面白いで済ましてしまうのは失礼。また、パート間で練習方法の交流をし、向上しあっていくといいでしょうね。
コンクールの2週間後にコンサート
楽しいコンサートがコンクール2週間後に控えています。今回のテーマは『マルクトオーバードルフからの贈り物』。コンサートの練習もしっかり進めています。コンサートとコンクールは別物ではなく、いいコンサートを催すためのコンクール参加であるという位置付けを再認識し、培った響きですべての曲を歌えるよう心掛けることで、うまくいくと思います。いろいろな曲に接することで響き作りが見えてくるはずですし、テンションを上げることができるからです。1回の練習でたくさんの曲を取り上げ、ポイントをはっきりさせて音楽的にも深めていきたいと思います。
幸いなことに、ドイツ公演の5月までに、ほとんどの曲が一応の完成を見たわけですから、それをリニューアルしていく感覚で楽しく練習していければと思っています。
コンクールとコンサート。夢に向かって真摯に取り組む《EST》の姿にご注目ください。
2001.11.17
中学校音楽学習発表会にゲスト出演
今日は、朝から合唱三昧でした。11人のメンバーと私とで、『一志郡久居市中学校音楽学習発表会』の招待演奏に出演してきました。関係の方々には、大変お世話になりました。
昨年に続いてのお招き。インタビューを交えた楽しいステージ作りも、慣れて来ました。今年の中学生は去年よりお行儀が良かったように感じました。ある担当の先生が「年によって生徒の質が変わるが今年はやりやすい」とおっしゃって見えましたが、先生方の様子もリラックスされていたように思います。
パレストリーナのモテットで始め、トークを挟んで、ラッソのマドリガルと続きましたが、演奏のほうは、質の高いアンサンブルでした。歌いこんでいる2曲です。曲が始まると、集中して聴いてくれました。終わると大きな拍手。中学生としては聴く態度はかなりのものです。
曲間のトークは、まず、メンバーの職業紹介。メンバー一人一人にインタビューをしました。「サランラップを作ってます。」と言ったS氏に大爆笑。「クリスマスの過ごし方は?」には、「誰か私と過ごしてください。」と中学生に迫るメンバーも。打ち解けたムードを作ってくれました。
3曲目は、クリスマスソングを。一転して会場はリラックスしてくれていました。ドイツ演奏のお話を挟み、「たくさんの種類の曲をドイツ演奏しましたが、一番受けた曲は何とこの曲でした。」と言って、4曲目に入りました。イントロでわかったのか、ざわざわ。“赤とんぼ”です。演奏のほうも極上でした。いいですねえ、信長氏のアレンジ。グッと心に迫る演奏でした。ドイツの感動がどこかに残っているのでしょう。
最後に、ちゃっかり12月の演奏会の宣伝をし、“ソーラン節”をエネルギッシュに歌って終了。「去年よりまた一段と力を上げられましたね。“赤とんぼ”が特によかったです。」とある先生からお言葉をいただきました。ある学校の文化祭出演の予約も来ました。小アンサンブルの《EST》もだんだん活動が広がっていくなあ、といううれしい予感を残し、会場を後にしたのでした。
こういった招待演奏会のメンバーは、そのときそのときの希望者で構成されます。朝から、仕事や授業を休んで駆けつけるメンバーや、大学で早朝練習をこなして集まるメンバー。3時間を掛けてやってくるメンバー。みんなやる気満々です。このすがすがしさが私は大好きです。聴衆の前での小アンサンブルは、大きな演奏技術の蓄積になります。今回も、確かな達成感を得て、いい笑顔で解散しました。さあ、また明日は練習です。全国大会が待っています。
出演メンバー
S.加藤・台堂
A.相原・大池・豊島
T.瀬川・野田
B.尾上・加藤・北田・鈴木
指揮…向井
2001.11.28
郡山に響いた《EST》サウンド
〜第54回全日本合唱コンクール全国大会で銅賞
2001年11月24日、Vocal Ensemble《EST》は、第54回全日本合唱コンクール全国大会一般A部門にて、銅賞を受賞しました。
《EST》のこだわりの成果は出た!
ずーっとこだわってきた、上へ抜ける響き作りと、高音の倍音をたくさん含む清潔で美しいイントネーション。そのための、声の均一化とその方向性としてのヴォーチ・デ・フィンテ。この日の演奏は、こだわりへのひとつの結実ともいうべきものでした。
ルネサンスの保守的な宗教曲が必要としている、純正律で倍音を多く含んだ、天へ向かう、謙虚で敬虔な美しいハーモニーは、ノンビブラートの慎ましやかな均一化された声でかもしだされます。パレストリーナのSicut Cervus も、その延長線上に捉え、会場の天井に向かって、質素な表現の中に熱い人間の祈りを込めて演奏しました。ポリフォニーの一つ一つの線的な流れが几帳面に表現され、祈りの緊張感がにじみ出るような、満足な演奏となりました。純正律もかなりのレベルで達成され、落ち着いた響きが天井に向かっていたと思います。最後の2小節でハーモニーにほころびが出てしまいました(第3音を必要以上に低めに設定してしまったのです)が、私のパレストリーナのイメージに一番近づくことのできた《EST》の名演となりました。ドイツでの演奏の時からの苦労が実った気がします。
ラッソのマドリガルは、時代様式に沿った音色は変えないながらも、人間的なドラマを表現しようと試みました。息の流れに勢いも出て、最後のクライマックスもまっすぐに突き抜けるような純正律のハーモニーが決まりました。
鈴木先生の「詞華抄」は、楽譜の細部を見直すことで、更なる発見⇒表現の多彩さに努めました。また、音響構造を明確化するための各音のバランスにも気を配り、細かなメモリで、あくまでも楽譜の求める世界に忠実であろうと心掛けました。それによって、やはり、真摯なはったりのない演奏が出来たような満足感があります。
今年の《EST》は、学び、発見する1年でした。日本の合唱団とは違う数々の世界の合唱団のサウンドに出会い、それらを吸収しようというのが合言葉でした。しかし、実際は、そう簡単なものではなく、思わぬ苦労がありました。志を同じくすることの難しさに悩んだ日々もありました。しかし、「今年はこの方向で!」と改めて確認し、練習も、ラストスパートで、すごい盛り上がりを見せてくれました。最後は、心ひとつに演奏でき、成果も出ました。本当に、いい本番でした。
松下先生率いる合唱団に新たな可能性を見た!
さて、コンクールの一つの利点である、“いい演奏に触れる”こと。今回も、収穫ありでした。松下先生の
VOX GAUDIOSA、雨森先生の CANTUS ANIMAE
での、振りをつけた楽しい演奏です。特に、VOX GAUDIOSA の“ヤコブの息子たち”(コスティアイネン)は、私は、指揮者着替え室のテレビで見ていたのですが、日本のコンクールに新風を送り込むすばらしいパフォーマンスでした。曲が進み、崩した発声、首回し、飛び跳ねなどを経てやはり”メオン”で会場は爆笑。大きな動きとともに順順に名前を叫んでいき、一瞬の静寂とともに”ベンヤミン”の名がテナーのソロで会場に溶けていく。そこからPでの音楽。そして最後のクラスター。歌い終えた後のお辞儀の面白さに、会場は、ブラボーと大喝采。とにかく楽しいステージでした。あの曲は、パフォーマンス付といっても、前衛に走り過ぎない、ほんとに楽しい曲です。パフォーマンスがおまけではなく、ちゃんと音楽になっていて素晴らしかったです。実は、一昨年の宝塚国際室内合唱コンクールで、アコール《EST》が取り上げた曲なのです。女声合唱で。
松下先生は、ドイツでご一緒させていただきましたが、大変気さくで、それでいてすごい情熱家でした。作曲家兼教育者兼指揮者として、世界的にも第一人者。彼は、今回、なんと5つの合唱団を全国大会に率いてきています。一般A部門へは3団体!指揮者着替え室で偶然にもお話する機会を得ましたが、「3団体を1時間ずつ場所を借りて練習してきたよ。もう、直前リハは、俺は行かなくていいな。」なんて呟いていました。混声版はどうやって手に入れたかという話になり、松下先生は「ん?コスティアイネン氏にもらった!」なんともはや、うらやましい限りです。(みなさん、今回のコンクールは、CDではなく、ビデオを買いましょう。必見ですよ。)
このように、いろんな演奏の在り方を間近に見聴きすることができたのが収穫でした。《EST》の今年の在り方は、勿論満足の行くものでしたが、また違った在り方ができるのではないか。私の頭の中では、この先の演奏のアイデアが、いろいろ形をなし始めて来ます。こういうのって楽しいですね、アイデアが自由に頭を巡るのは。
結果発表と審査のとらえかた
翌日の「やちまた混声合唱団」のコンサートのため、私は審査発表の前に帰らなければなりませんでした。新幹線の中で、「銅賞」とメンバーからTELがあり、一瞬がっかり・・・。でも、これからのことを考えるいい機会。
さて、謙虚にもう一度振り返ってみましょう。音律と声の均一化にとらわれ過ぎ、犠牲になっていたものは? ふと思い出したのは、10年近く前に三重カルチャーフェスティバルでお招きしたある先生のお言葉(今回の審査員でした)。「小編成(A)グループで金賞取ろうと思ったら、プロの声楽家を32人雇えばいいんですよ!」
この方の言われたことはオーバーだとしても、個々の声の魅力とか、歌の輝きという点で、何と言うか平面的な演奏だった気がします。均一化を掲げることが、ハートの部分を押さえ込むことになっていたのでは・・・。メンバー一人一人が生きている証となる歌を目いっぱい立体的に歌い、その結果として、声も揃っている、というのが本当の音楽だと思います。この自明なことに気づかずに、まず形を整えることを考えてしまった、それが演奏を平面的なものにしてしまったのではないでしょうか。質素で、緊張感の中に祈りが見え隠れする演奏。ルネサンス時代はそれで良かったかもしれませんが、現代に蘇生させるには、立体的な生き生きとしたメンバーの人間味溢れる魅力をもっともっと出すべきでした。
ばらばらの声で音程も悪いのでは話になりませんが、演奏のバランスとして、均一化と音程をにわか作りしたことによって、人間的な魅力に欠けてしまったのかもしれません。それは、松下先生や雨森先生の合唱団の演奏から、私がはっと気づいたことでもありました。
その点、現代の音楽である「詞華抄」は成功していたと思います。やはり、作品と同時代に生きているということで、自分たちの歌として生き生きと表現できていました。
作品の命を歌いきる魅力を
声作りは、日常的な問題として捕らえ、基本的にいつもいい音が鳴っているべきでしょう。そして、演奏するときは、声のことに神経を使わなくても声は揃っていて、作品の命を伸び伸びと歌いきることのできる状態をつくりたいものです。
書いていて、むずむずして来ます。早くメンバーと再会したい気持ちです。そして、早速、12月8日に実現して見たい!歌うメンバーの魅力をたっぷり感じていただけるような演奏を!
第54回全日本合唱コンクール全国大会の画像